戦力の逐次投入は下策と言っても……

 先日ラジオで某野党議員の発言に物凄くひっかかったのでその話を。
 能登半島沖地震に対する自衛隊の派遣に関して、最初の投入人数が少なくて、後から増やしているのは戦力の逐次投入で云々という発言。
 確かに、戦力の逐次投入は下策と言われますが、それもケースバイケースなんですよということ。
 なお、自衛隊の出動要請や派遣の段取りについてはそもそも政権が関わる内容では無く、そのことを与党批判の文脈で語る事が筋違いなのですがそれはまた別の話として置いておきます。

 そもそも戦力の逐次投入についての議論は、戦争における戦術が元になっています。
 互いに殺し合う戦争においては、適切でない戦力を投入してもいたずらに被害を増すだけという物。
 例を挙げると、こちらが兵1000人、相手方が兵500人だとして、一気に全兵力を投入して1000対500の状況を作ればかなりの確率で勝てるでしょうし、被害も最小に抑えられるでしょう。
 しかし、戦力を小出しにし100人を10回に分けて相手にぶつけると、最初の戦いは100対500の戦いとなり間違いなく負けます。その後も、多少相手が消耗していくにしろずっと兵数が劣勢のまま戦う事になるので、いたずらに兵を失っていき、下手をすれば負けかねません。
 だからこそ戦力の逐次投入は下策と言われる訳ですが、それは世の中の全ての事象に当てはまる普遍的な話という訳はありません。戦争以外の事については当てはまらないケースも多く存在します。

 

 特に今回の様な災害派遣の場合、最初は何よりもスピードが優先されます。
 72時間の壁をはじめ、初動が遅れればその分だけ被害が拡大することはこれまでの災害で何度も言われていたこと。
 だからこそ、スピードを重視し準備が出来た部隊から派遣するというのは極めて真っ当な判断なんです。
 災害に対する出動であれば、少数で派遣したとしてもその人員が失われるという訳ではありませんしね。
 勿論最初から大部隊を緊急派遣できればそれに越したことは無いですが、それは極めて非現実的であり、もしやるにしても物凄いコストがかかります。
 自衛隊員だって人間であり休息を必要とする以上、緊急で動かせる人数には限りがあります(全隊員を即時に動かせるわけではない)。
 災害がいつどこで起こるかもわからないので、局所的に人員を配置する訳にも行きません。そもそも災害出動が主任務では無いので、それだけを考えて配置を考える訳にも行きません。
 全国津々浦々に、大人数を緊急出動できる体制を築くには相応の自衛隊員の配備が必須で、公務員の人件費を削減することを只管に唱える世論の前でそれはまあ無理でしょう。

 

 確かに、野党の仕事とは与党を批判する事といっても間違いではありません。
 与党のチェック機能として働くとはそういう事であり、むしろ批判をしない野党は存在価値がありません。
 ですが、チェック機能を果たして欲しいからこそ、何でもかんでも批判すれば良い訳ではないし、頓珍漢な理屈で批判しても意味がありません。
 むしろ無理筋の批判は、チェック機能を果たすどころか逆の作用を生み出しかねません。
 政治の信頼を取り戻すとか、政権交代とか大層な事を言う前に、まずはちゃんと真っ当な仕事をして欲しい物だと思います。